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マンション管理関係判例

№１２　専有部分性／給排水管等の設備


平成12年12月27日　判タ1085-257　福岡高判

関連条文 民法671条・717条・区分所有法３条・30条


判決要旨
（ⅰ）管理組合の当事者適格について、管理組合が管理すべき共用部分に起因して個々の区分所有者に損害が発生した場合、その区分所有者に帰責事由がない限り、管理規約に基づいて管理組合に対して請求できるとした。（ⅱ）屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故について、管理組合に区分所有者に対し、管理規約による管理義務の不履行に基づく管理責任を認めた。（ⅲ）屋上、外壁クラックからの雨水の浸入を原因とする水滴による和服の変色等の損害について、管理組合にマンションの賃借人に対し、民法717条1項の責任を認めた。（ⅳ）床下排水管のうち、階下との境界をなす中央部にある部分は共用部分であるが、その上にある床下の空間にある部分は専有部分に属すると判断した。

判決日・当事者
〔福岡高裁平11（ネ）第832号、損害賠償請求控訴事件、平12・12・27第４民事部判決、変更・確定、原審福岡地裁平９（ワ）第3783号、平11・８・23判決〕

《当事者》
　控　　　訴　　　人　　　Ｘ1
　　（以下「控訴人Ｘ１」という。）
　　　　　　　　　　　　　　　　　外３名
　上４名訴訟代理人弁護士　敷　地　隆　光
　被　　控　　訴　　人　　Ｙ１管理組合
　　（以下「被控訴人管理組合」という。）
　上代表者理事長　　　　　Ｙ２
　上訴訟代理人弁護士　　　中　島　繁　樹
　被　　控　　訴　　人　　Ｙ３
　　（合併前の株式会社Ｈビルサービス。以下「被控訴人Ｙ3」という。）　
　上代表者代表取締役　　　Ｙ4
　上訴訟代理人弁護士　　　岩　田　　　務
　被　　控　　訴　　人　　Ｙ5火災海上保険株式会社
　　（以下「被控訴人Ｙ5火災」という。）
　上代表者代表取締役　　　Ｙ6
　上訴訟代理人弁護士　　　梅　野　茂　夫

【主　文】
　一　原判決中、控訴人Ｘ2と被控訴人管理組合に関する部分を次のとおり変更する。
　　１　被控訴人管理組合は、控訴人Ｘ2に対し、金56万8,000円及び内金28万円については平成８年８月14日から、内金28万8,000円については平成９年３月１日から各支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
　　２　控訴人Ｘ2の被控訴人管理組合に対するその余の請求を棄却する。
　二　控訴人Ｘ2のその余の被控訴人らに対する本件控訴をいずれも棄却する。
　三　控訴人Ｘ１、控訴人Ｘ3及び控訴人Ｘ4の被控訴人らに対する本件控訴をいずれも棄却する。
　四　訴訟費用中、控訴人Ｘ2と被控訴人管理組合との間で生じたものは、第１、２審を通じてこれを６分し、その５を控訴人Ｘ2の、その余を被控訴人管理組合の負担とする。
　五　その余の控訴費用は控訴人らの負担とする。
　六　この判決は、第１項に１に限り、仮に執行することができる。

【事実及び理由】
第一　当事者の求めた裁判
　一　控訴の趣旨
　　１　原判決を取り消す。
　　２　被控訴人らは、控訴人Ｘ１に対し、各自金272万7,650円及びこれに対する平成８年10月20日から支払い済みまで年５分の割合による金員を支払え。
　　３　被控訴人らは、控訴人Ｘ2に対し、各自金361万9,540円及びこれに対する平成８年８月14日から支払い済みまで年５分の割合による金員を支払え。
　　４　被控訴人らは、控訴人Ｘ3に対し、各自金368万1,989円及びこれに対する平成８年１月28日から支払い済みまで年５分の割合による金員を支払え。
　　５　被控訴人らは被控訴人Ｘ4に対し、各自金2,203万1,000円及びこれに対する平成８年８月14日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
　　６　訴訟費用は、第１、２審とも被控訴人らの負担とする。
　　７　２ないし５につき、仮執行宣言
　二　控訴の趣旨に対する答弁（被控訴人ら）
　　１　本件控訴をいずれも棄却する。
　　２　控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二　事案の概要
　次のとおり、被控訴人らの責任原因についての主張を改めるなどしたほか、原判決の「事実及び理由」の「第二　事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
　一　原判決６頁５行目「Ｓ（」の次に「昭和56年２月新築。」を、同７頁10行目の末尾に「株式会社Ｈビルサービス（以下「Ｈ」という。）は、平成11年10月１日被控訴人Ｙ3に合併して解散した。」を加える。
　二　同８頁５行目から同９頁６行目までを次のとおり改める。
　　「(一) （第１事故）平成７年５月14日に発生した、共用部分である屋上排水ドレーンゴミ詰まりに起因する903号室への漏水事故（乙ロ４、乙ハ９、13。ただし、その継続期間については、争点２記載のとおり争いがある。控訴人Ｘ１及び同Ｘ2は、当審において、平成７年５月15日以降に生じた903号室の漏水が屋上排水ドレーンのゴミ詰まりとは別の原因で生じたものであれば、別の原因による事故として両事故による損害を請求する旨明らかにした。）
　　　(二) （第２事故）平成８年８月14日に発生した、903号室北側バルコニー排水口目詰まりに起因する同室への溢水事故（原審控訴人Ｘ2、原審証人Ｚ1、同Ｚ2）
　　　(三) （第３事故）平成８年１月28日に発生した、503号室床下排水管亀裂に起因する303号室への漏水事故（甲43、乙ハ６）
　　　(四) （第４事故）平成８年８月14日に発生した、403号室バルコニー排水口目詰まりに起因する303号室への漏水事故（甲43、乙ハ16）」
　三　同９頁８行目から同23頁７行目までを次のとおり改める。
　「１　被控訴人らの責任原因（控訴人らの主張）
　　　(一) 控訴人Ｘ１及び同Ｘ3　
　(1)　被控訴人管理組合の責任
　控訴人Ｘ１は903号室の、控訴人Ｘ3は303号室の各区分所有者として被控訴人管理組合に対し管理業務を委任（凖委任）していたところ（管理規約23条本文、24条１項、32条５項、６項、38条(1)ないし(4)、(13)等）、共用部分である屋上及びバルコニーについて被控訴人管理組合（又はその履行補助者であるＨ）が管理業務を怠ったことにより第１事故及び第４事故（いずれも漏水事故）が発生し、また損害が拡大したのであるから、債務不履行に基づき上事故による損害を賠償すべき責任がある。
　また、被控訴人管理組合には、上管理を怠った過失による不法行為責任がある。
　バルコニーは構造的には建物全体の躯体の一部であって、明かに本件マンションの共用部分であるから、その管理については被控訴人管理組合が責任を負う。また、本件マンションの管理規約（以下単に「管理規約」と言う。）23条ただし書により、バルコニーの管理のうち通常の使用に伴うものについては、バルコニーの専用使用権を有する各住戸の区分所有者がその責任を負うとしても、上各事故の発生した台風接近時にバルコニー排水口の目詰まりを防ぐことは、バルコニーの通常の使用に伴う管理業務の範囲を超えており、被控訴人管理組合が管理責任を負うべきである。
　(2)　被控訴人Ｙ3の責任
　被控訴人管理組合はＨとの間で管理委託契約を締結していたが（甲１）、上契約は、管理者（建物の区分所有等に関する法律25条以下）と同等の権限を付与された被控訴人管理組合理事長（管理規約43条２項）が区分所有者全員の代理人として締結したものであるから、Ｈは全区分所有者に対して上契約に基づく管理業務を負っているところ（管理委託契約２条２項、３条１号②、３号④、11条１項）、共用部分である屋上及びバルコニーについてＨが管理業務を怠ったことにより第１事故及び第４事故が発生し、また損害が拡大したのであるから、債務不履行に基づき上事故による損害を賠償すべき責任がある。
　また、Ｈには、上管理を怠った過失による不法行為責任がある。
　(3)　被控訴人Ｙ5火災の責任
　被控訴人管理組合は被控訴人Ｙ5火災との間で本件マンションについて本件保険契約を締結していたが、上契約は、管理者と同等の権限を付与された被控訴人管理組合理事長が区分所有者全員の代理人として締結したものであるから、被控訴人Ｙ5火災は全区分所有者に対して上契約に基づく損害保険金支払義務を負っている。
　また、控訴人Ｘ１及び同Ｘ3は被控訴人管理組合に対し前記(一)のとおり損害賠償請求権を有しているので、上債権を保全するため同管理組合の被控訴人Ｙ5火災に対する保険金請求権を代位行使することができる。
　　　(二)　控訴人Ｘ2及び同Ｘ4
　(1)　被控訴人管理組合の責任
　控訴人Ｘ2は903号室の賃借人の配偶者、同Ｘ4は303号室の所有者の配偶者で、いずれも本件マンションの居住者であるが、本件マンションの共用部分であるバルコニー及び床下排水管の欠陥が原因となって第２事故（溢水）及び第３事故（漏水）が発生し損害を蒙ったものであるから、上工作物の占有者である被控訴人管理組合には工作物の不法行為責任（民法717条１項）がある。
　第３事故に関し、503号室床下排水管は、構造上の独立性、利用上の独立性、特定区分所有者単独での保守管理可能性のいずれの点から判断しても共用部分であるから、被控訴人管理組合が管理責任を負うべきである。
　なお、平成元年２月４日に開催された被控訴人管理組合の臨時総会において『専有部分の床スラブ等の中の給排水管等について共用部分とすることを明記する』との議案が承認され、これを受けて同年２月20日に施行された管理規約において、共用部分等（共用部分及び付属施設）の範囲を定めた別表２の『１』において床スラブが、同『２　建物に直接する附属物』として『給排水衛生設備』、『その他各種の配線、配管』が、同『３　建物に直接しない附属施設』として『排水施設』が掲げられるに至った。
　(2)　被控訴人Ｙ3の責任
　Ｈは、被控訴人管理組合から本件マンションの管理を受託していたにもかかわらず管理を怠ったことにより第２事故及び第３事故を発生させ、本件マンションの居住者である控訴人Ｘ2及び同Ｘ4に損害を蒙らせたのであるから、不法行為責任がある。
　(3)　被控訴人Ｙ5火災の責任
　控訴人Ｘ2及び同Ｘ4は被控訴人管理組合に対し前記(一)とおり損害賠償請求権を有しているので、上債権を保全するため同管理組合の被控訴人Ｙ5火災に対する保険金請求権を代位行使することができる。
　また、被控訴人Ｙ5火災が第４事故にの際に派遣したした鑑定人が、控訴人Ｘ4に対し被害物保管について誤った指示をしたことにより損害が拡大したのであるから、拡大した損害について被控訴人Ｙ5火災に使用者責任（民法715条）がある。
　　２　被控訴人管理組合の主張
　　　(一)(1)　法人格のない被控訴人管理組合は、原則として不法行為能力を有しない。
　(2)　管理規約は建物の区分所有者に関する法律３条の授権に基づき各区分所有者と管理組合との関係を規律している自治規範であって、各区分所有者と管理組合との関係は契約関係ではないから、被控訴人管理組合が各区分所有者に対し債務不履行責任を負うことはない。
　被控訴人管理組合は本件マンションの共用部分を管理する権限を有しているが、仮に上権限の不行使があっても、それによって被控訴人管理組合が控訴人らに不法行為責任を負うものではない。また、被控訴人管理組合の権限は、組合内部の権限にすぎないから、組合外の第三者である控訴人Ｘ2に対して、被控訴人管理組合が不法行為責任を負うことはない。
　(3)　第１事故に関して、屋上排水ドレーンは被控訴人管理組合が通常管理せず、占有もしていないから、被控訴人管理組合は不法行為責任を負わない。第２及び第４事故に関して、管理規約23条ただし書により、バルコニーの管理のうち通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する当該住戸の区分所有者がその責任と負担において行うこととされているから、被控訴人管理組合は責任を負わない。また、バルコニーの排水設備に欠陥があったとしても、規約32条１項に基づき、その保全及び修繕の責任は専用使用する区分所有者が負うべきであり、被控訴人管理組合に責任はない。第３事故に関して、503号室床下排水管は、同室の区分所有者の専有部分であり、仮に共用部分であるとしても、同室の区分所有者が専用使用する部分であるから、上区分所有者が管理責任を負い、被控訴人管理組合に管理責任はない。
　　　(二)　仮に被控訴人管理組合の工作物責任が問題になるとしても、被控訴人管理組合は、Ｈに管理業務を委託して管理業務を十分に尽くしていたから、それでも発生した損害については各区分所有者が責任を負うべきである（民法717条１項ただし書き）。
　　３　被控訴人Ｙ3の主張
　Ｈは、屋上排水ドレーンの清掃を毎月実施するなど、マンション管理会社としての通常の義務を履行しており、屋上排水ドレーンの保全、修理の義務を怠ったとはいえず、第１事故につき債務不履行及び不法行為責任はない。第２及び第４事故については、バルコニーが各住戸の専有部分の一部と解される以上、工作物の保存の瑕疵として、バルコニーの占有者ないし区分所有者が管理責任を負うべきであり、仮にバルコニーが共用部分とされるとしても、管理規約23条ただし書に基づき、専用使用権を有する各住戸の区分所有者が管理責任を負うべきである。したがって、Ｈにバルコニーの管理業務はなく、債務不履行及び不法行為責任もない。第３事故についても、503号室の床下排水管は、専有部分相互の境界部分のうち、いわば上塗り部分に当たり、同室の区分所有者が所有する専有部分であると解されるから、上区分所有者が保全と修繕の義務を負う。また、仮に共用部分であったとしても、管理規約32条１項により、503号室の専用所有者が保全と修繕の義務を負う。したがって、Ｈには管理責任はなく、債務不履行及び不法行為責任もない。
　　４　被控訴人Ｙ5火災の主張
　　　(一)　控訴人らが債権者代位権を行使するに当たっては、被控訴人管理組合の無資力及び被控訴人管理組合の被控訴人Ｙ5火災に対する保険金請求権が履行期にあることとが必要である。上保険金請求権は、損害の確定によって履行期が到来するのであり、現時点では履行期は到来していない。したがって、控訴人は被控訴人Ｙ5火災に対して、将来の給付の訴えならともかく、現在の給付を求めることはできない。
　仮に債権者代位権が認められたとしても、本件保険契約による保険額は、対物１事故につき500万円であるから、控訴人らは、第４事故による損害のうち500万円を超える部分について、債権者代位権を行使することはできない。
　　　(二)　第２及び第４事故については、バルコニーが専有部分である以上、上各事故は、排水口の清掃を怠った占有者や区分所有者の管理懈怠に起因するものであり、本件保険契約の対象とはならない。仮にバルコニーが共用部分であっても、管理規約23条ただし書により、その管理のうちの通常の使用の伴うものについては、専用使用権を有する者が責任を負い、上各事故がバルコニーや排水口の構造上の欠陥により発生したとしても、管理規約32条１項により、その保全及び修繕は、専用使用権を有する区分所有者の責任であるから、本件保険契約の対象とはならない。
　第３事故についても、503号室の床下排水管は専有部分の建物の附属物であり、同室の区分所有者が管理責任を負うべきであるから、本件保険契約の対象とはならない。
　　　(三)　被控訴人Ｙ5火災に対する使用者責任については、控訴人らのいう鑑定人は、被控訴訴人Ｙ5火災の従業員でも指揮監督を受ける者でもなく、同人らに過失もないから、控訴人らの主張は失当である。」
第三　当裁判所の判断
　一　第１事故について
　　１　被控訴人管理組合の不法行為の能力等については、原判示（原判決33頁末行から同35頁５行目まで）のとおりであるから、これを引用する。
　　２　被控訴人管理組合は、管理規約は自治規範であり被控訴人管理組合と区分所有者との間に契約関係はないと主張するが、管理組合は、建物の区分所有等に関する法律３条に基づき区分所有の目的とする建物並びにその敷地等の管理のために区分所有者全員をもって構成するものとされ（管理規約６条）、敷地及び共用部分等の管理をその責任と負担において行うものとされている（同23条本文）のであるから、管理組合において管理すべき共用部分に起因して個々の区分所有者に損害が発生した場合、その区分所有者の責に帰すべき事情がない限り、その損害が最終的には全区分所有者間でその持分に応じて分担されるとしても、先ずは管理規約に基づいて管理組合に対して請求できると解するのが相当である。そして、上の管理組合と個々の区分所有者の関係を準委任類似の関係とみるかどうかはともかく、控訴人Ｘ１らの主張が上の管理規約に基づく請求を含むものとする余地があるので、さらに検討する。
　　３　控訴人らは、第１事故に関し、屋上排水ドレーンからの漏水が、平成７年５月14日以降平成８年10月20日まで継続した旨主張しており、控訴人Ｘ2も上主張に沿う供述をしている（甲22、原審控訴人Ｘ2）。しかし、証拠（甲36、50、乙イ２の１ないし３、３の１ないし４、４、12、乙ロ１、２の各１、２、４、５、乙ハ９、10の１ないし３、11ないし13、原審控訴人Ｘ2、原審Ｈ代表者石原、原審証人Ｚ2、同Ｚ3）によれば、平成７年５月14日の場合は屋上排水ドレーンが詰まって水がたまり低い位置にあった通気孔から水が入って約40分間にわたり903号室に相当の量の水か流れ込み、畳の取り替えを要した程のものであったのに対し、同年10月ころ以降に発生した漏水は903号室の壁に断続的に水滴がつくといったもので、漏水の態様が全く異なっていること、平成９年２月の調査により屋上、外壁から躯体内部のクラックを伝わって雨水等が浸入していたことが判明し、同年５月ころ屋上防水工事を施行した後は平成７年10月ころ以降みられた水滴被害はなくなったことなどの事実が認められる。以上の事実によれば、平成７年10月ころ以降に生じた903号室の水滴の被害は、屋上、外壁のクラックからの雨水等の浸入が原因となって生じたものであり、屋上排水ドレーンのゴミ詰まりとは別の原因によって生じたものというべきである。控訴人Ｘ１及び同Ｘ2は、当審において、漏水の原因が異なる場合は、両者とも被害として請求する旨明らかにしたので、以下両者について検討する。
　　４　屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故
　第１事故が発生した屋上排水ドレーンが共用部分であることには当事者間に争いがない。　証拠（甲48の１ないし４、乙イ２の１、２、乙ロ７、原審証人Ｚ3、原審控訴人Ｘ１）によれば、第１事故の約３年前である平成４年４月28日に屋上排水ドレーンにゴミ（鳥が運んできたわら等）がたまって排水できず、低位置にあった通気孔から903号室に水漏れが生じ、さらに803号室まで水漏れが生じたという事故があり、その際被控訴人管理組合と被害者２名（903号室の控訴人Ｘ１及び803号室のＺ4）との間で示談書が交わされ、被控訴人Ｙ5火災から被控訴人管理組合に対し損害保険金が支払われたことが認められること、ゴミがたまって屋上排水ドレーン詰まるのを防ぐための措置をとることが著しく困難であるとは考え難いこと（毎月の掃除のほか、排水口に大きめの椀型の網の蓋をかぶせ、また通気孔を高くする方法等が考えられ、現に平成９年２月に同様の改修工事が行われた。）などにかんがみると、被控訴人管理組合は屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故の結果を予見してこれを回避することが可能であり、そうすべき義務があったというべきであり、これを怠った過失を認めることができる。また、上は工作物の設置又は保存の瑕疵に該当するというべきである。したがって、屋上排水ドレーンを管理していた被控訴人管理組合は上瑕疵によって損害を蒙った者に対し管理規約に基づく責任あるいは工作物の不法行為を免れない（民法717条１項）。
　以上によれば、上漏水事故によって控訴人Ｘ１らに損害が発生したとすれば、被控訴人管理組合は、控訴人Ｘ１に対しては管理規約による管理責任として、控訴人Ｘ2に対しては不法行為責任として、同控訴人らの損害を負担すべきことになる。
　　５　屋上等のクラックからの雨水等の浸入
　管理規約８条によれば屋上、外壁は共用部分であるから、前記のとおり、被控訴人管理組合がその管理義務を怠った場合には管理規約による管理責任が認められる余地がある。また、屋上等のクラックから雨水等が浸入するのは、本件マンションが通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、工作物の保存に瑕疵（民法717条１項）があったというべきであるから、工作物責任も免れないことになる。
　　６　損害
　　　(一)　控訴人Ｘ１の損害について
　証拠（乙イ２の１ないし３、乙ハ９、10の１ないし３、11ないし13、原審控訴人Ｘ2）を総合すれば、屋上排水ドレーンの事故により903号室の西南の和室６畳に約40分間漏水があったこと、当時同室の賃借人であったＺ5（控訴人Ｘ2の夫）は、平成７年５月、上漏水事故に関し被控訴人管理組合との間で、壁クロス貼替工事、畳取替（２枚）等の代金８万5,000円を被控訴人管理組合に負担して貰うことで一切を解決する旨の示談をし、そのころ上工事、畳取替等を終えたことが認められる。
　控訴人Ｘ１は、その後の水滴被害による損害も含めて平成９年１月時点における903号室の改装工事の見積書等（甲５の１、２）を提出するが、上認定のとおり、第１事故については、事故直後賃借人との間で損害賠償の示談（上示談が控訴人Ｘ１に対し拘束力を有するものではないが）が行われて損害の回復が図られたこと、上見積書等の内容は、903号室の玄関から居間、台所、和室２室その他全般にわたる改装の見積りであって、同控訴人も実際には上工事をしないまま、控訴人Ｘ2が903号室を退去後、２、３か月した平成９年６月ころ新たな賃借人に賃貸している。（原審控訴人Ｘ１）ことなどを考えると、上見積額は屋上排水ドレーンの事故や平成７年10月ころ以降の水滴被害による損害とは認め難く（控訴人Ｘ１は第２事故によって自宅が溢水したことによる損害賠償も請求しており、上見積もりは第２事故による被害の見積もりも含まれていることが窺われる。）、他に損害を認めるに足りる証拠はない。
　　　(二)　控訴人Ｘ2の損害について
　控訴人Ｘ2は、第１事故による損害として和服２着の損害を主張するが、上和服２着は平成７年５月14日の第１事故当時903号室には保管しておらず、同年11月ころ七五三で使用した際に控訴人Ｘ2の実家から903号室に持ち込んだところ１か月程してしみが付いてしまったとというのであって（原審控訴人Ｘ2）、上和服の変色等の損害が水滴などによる被害であることを認めることはできるが、着物２着のうち、１着は昭和60年の購入価額が35万円、他は平成５年に９万2,700円で購入した産着である（甲６、７、原審控訴人Ｘ2）ことを考えると、上和服の損害は25万円と認めるのが相当である。被控訴人管理組合は、Ｈに管理業務を委託して管理業務を十分に尽くしたと主張するが、証拠（甲１、原審証人Ｚ2）によると、被控訴人管理組合がＨに委託した管理業務は、１設備管理業務、２共用部分清掃業務、３事務管理業務及び４設備監視業務の４つであって、屋上、外壁のクラックなど建物の経年的劣化による瑕疵の有無の調査、その修繕は被控訴人管理組合が管理する建物の共用部分の「保全」「保守」ないし「修繕」（管理規約38条(1)、(2)）に相当するものであって、上４業務の中に含まれるものではなく、他にこれを特別に委託していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、一般的な管理業務である上４業務を管理会社に委託したからといって、「設備」の管理、監視に含まれない建物の共用部分の「保全」「保守」ないし「修繕」を怠った以上、これにより生じた損害の発生を防止するために十分な注意を尽くしたということはできない。管理委託契約書（甲１）の第３条の３の⑬の「補修工事……等の外注に関する業務」がこれに当たるとする反論もありうるが、これは事務管理業務の１つとして掲げられていることなどにかんがみると、被控訴人管理組合から特別に指示された場合の事務管理業務をいうと解するのが相当である。つまり、Ｈとしては建物の経年的劣化による瑕疵の発生の可能性、その調査等については被控訴人管理組合に進言することは期待されても、調査、補修工事等を含む一切合切を包括的に委託されていたわけではないのであるから、被控訴人管理組合からの特別の指示、委託なくして調査、補修工事を始めることはできないというべきである。
　また、控訴人Ｘ2は、903号室の漏水原因調査に25万8,000円を要したと主張するので検討するに、証拠（甲８の１、２、乙イ４、原審証人Ｚ2、原審控訴人Ｘ2）によれば、控訴人Ｘ2が平成８年10月ころＨ及び被控訴人管理組合に903号室に漏水があるとしてその原因調査を依頼したが同被控訴人らはこれに応じなかったので、平成９年２月ころ丸和工務店に漏水原因調査を依頼したところ、屋上及び外壁から躯体内部のクラックを伝わって903号室に雨水が浸入していることが判明したこと、控訴人Ｘ2は丸和工務店に対し同年３月１日上調査費用として25万8,000円を支払ったことが認められる。これは、工作物の保存の瑕疵があったとことにより蒙った損害と認められ、被控訴人管理組合において上損害を生じさせないように必要な注意を尽くしたとは認められないから、被控訴人管理組合は控訴人Ｘ2に対し上損害を賠償すべき責任がある。
　本件事案及び認容額等にかんがみ、上事故と相当因果関係のある弁護士費用としては６万円を認めるのが相当である。
　そうすると、控訴人Ｘ2の被控訴人管理組合に対する請求は、金56万8,000円及びうち28万円（和服の損害25万円及び弁護士費用３万円）については不法行為の後である平成８年８月14日以降、うち28万8,000円（漏水調査費用25万円及び弁護士費用３万円）については漏水調査費用を支出した平成９年３月１日以降の各遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
　　７　被控訴人Ｙ3の責任
　以上によると、第１事故については控訴人Ｘ2の和服２着の損害及び漏水原因調査費用のみが問題となるところ、和服２着の損害は屋上及び外壁の躯体部分のクラックから浸入した雨水によるものであり、上調査費用は、漏水の原因の調査のため支出し、結果的にも上の経年的な建物の瑕疵の発見につながったものであるから、先にみたとおり本来的に被控訴人管理組合が「保全」「保守」ないし「修繕」し、その費用を負担すべきものであってＨの委託業務の範囲外にある以上、Ｈは民法717条１項の「占有者」とはいえず、工作物責任も生じない。
　　８　被控訴人Ｙ5火災の責任
　控訴訴人Ｘ2の請求は債権者代位権によるものであるところ、債権者代位権を行使するには債務者の無資力が用件とされるのであり、本件全証拠によってもこれを認めるに足りる証拠はない。よって、同控訴人の被控訴人Ｙ5火災に対する請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
　二　第２ないし第４事故について
　当裁判所も、第２ないし第４事故に関する控訴人らの請求は、いずれも被控訴人管理組が管理すべき場所から生じた事故ではないから理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり改めるほか、原判決の「理由」のとおり（被控訴訴人管理組合につき、原判決43頁７行目冒頭から同50頁９行目末尾まで、被控訴人Ｙ3につき、同53頁９行目冒頭から同54頁６行目末尾まで、被控訴人Ｙ5火災につき、同54頁末行冒頭から同57頁１行目末尾まで）であるから、これを引用する。
　　１　原判決49頁10行目の「相当である（｣の次に「乙イ１の管理規約７条、」を加え、同50頁５行目の次に改行のうえ次のとおり加える。
　「なお、管理規約によって専有部分である配管を管理組合の管理の対象とすることは可能であるところ（建物の区分所有等に関する法律30条１項）、控訴人らは、被控訴人管理組合において、平成元年２月４日に開催された臨時総会において、管理規約改訂の件として、『新たに専用部分の床スラブ等の中の給排水管等については共用部分とする内容を明記する』旨の議案が承認され（甲51）、これを受けて同年２月20日に改訂された管理規約（乙イ１）が施行されたので、第３事故の原因となった床下空間部分の排水管は共用部分であると主張する。
　しかしながら、証拠（乙イ１、13、乙ロ10の１ないし５）によれば、昭和62、３年ころ床スラブ内の排水管から漏水した事故があって、上排水管が共用部分かどうかが問題となり、被控訴人管理組合がその損害賠償責任を否定するなどしたことを契機に、平成元年２月４日に開催された臨時総会において、管理規約改訂の件として、『新たに専用部分の床スラブ等の中の給排水管については共用部分とする内容を明記する』旨の議案が承認され（甲51）、これを受けて、共用部分等（共用部分及び付属施設）の範囲を定めて別表２の『２』が、従前は、『建物に直接する附属物（専有部分内のものを除く）』として『電気設備、給排水衛生設備、防火設備、その他各種の配線、配管等』とされていたのが（乙イ13参照）、新たに『建物に直接する附属物』として『電気設備、給排水衛生設備、防火設備、その他各種の配線、配管等（天井、床及び壁のうちに存するもので、躯体部分内に存するものは、専有部分内でも共用部分とする）』（乙イ１）と改正され、同年２月20日施行されたことが認められる。上管理規約の改正経緯、改正された管理規約の内容によれば、床下排水管は床スラブ内に存する部分は共用部分であるが、床とスラブとの間の空間に存する部分は区分所有者の専有部分であると解するのが相当であり、第３事故の原因となった排水管は床下空間部分に存したものであるから共用部分とは認められない。控訴人Ｘ4作成の陳述書（甲54）中、床下部分の排水管はすべて共用部分とした旨被控訴人Ｙ3から説明があったとする部分は採用できない。
　　２　同55頁２行目の「１(四)」を「１(二)、(三)」と改める。
第四　以上によれば、本件控訴は、控訴人Ｘ2の被控訴人管理組合に対する請求については一部理由があるが、その余はいずれも理由がなく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条１項、２項、65条１項、64条、61条を、仮執行宣言につき同法310条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
　（裁判長裁判官・川畑耕平、裁判官・岸和田羊一、裁判官・白石　哲）


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